家族葬について⑤:それぞれの葬儀のかたち
多様化する「葬儀のかたち」のなかで、いざ葬儀を行おうとすると迷われる方も多いです。
葬儀のスタイルの流行の推移と注目されているもののついてご紹介します。
「家族葬」はメリットが多い方法ですが、他の方法について知ればよりよい選択ができます。
「一般葬」「宗教様式の葬儀」の役割についても解説します。
葬儀にもスタイルの流行がある
核家族化などの社会的変化とともに、「家族葬」が選ばれることが増えました。
こうした「規模の流行」もありますが、葬儀の「内容」も変化しています。
「一般葬」と比較して、プライベートな色合いが強い「家族葬」では、よりその変化が大きいです。
葬儀会場のイメージを決定する大きな要素として、「どんな祭壇」を使うかがあります。
従来からのお葬式の祭壇といいますと、宮型の白木祭壇を思い浮かべる方が多いでしょう。
ですが、宮型の白木祭壇は戦後になって普及したものです。
それ以前には、葬儀では葬列の方が重視されていました。
昭和30年ごろから生活環境の変化により、おおがかりな野辺送りをせず、告別式でお別れをするようになりました。
野辺送りでは棺を入れて運ぶ「おこし(お神輿の”こし”です)」であったものが変化して、周辺の祭具とまとめられ、告別式の祭壇として置かれるようになりました。
古い形では祭壇の後ろに棺を置き、名残がありました。
霊柩車も棺を運ぶ「おこし(輿)」が変化したものです。
現代でも、希望すれば、棺を中に入れる本格的な祭壇で葬儀を行えます。
ここ10年では、生花をつかった「花祭壇」が人気で、取り入れる方が増えています。
宗派・宗旨を問わず、無宗教でも使えますし、故人の好きだった花を用いたり、祭壇自体のかたちの自由度が高く故人のイメージにあわせやすいのも理由です。
額装や棺の上にも花を飾ったり、外看板にも花をあしらったものなど、プランのバリエーションは多いです。
そのほか、白木の宮型祭壇とことなる点は、生花で作られた祭壇は、一度きりのその葬儀だけのものである点です。
オリジナリティを重視するご時勢ですので、その「一回性の価値」はより重視されるようになりました。
棺に参列者がお別れ花を入れる儀式は広く行われていますが、花祭壇であれば、お花をたっぷり用意しやすいことも支持される理由のひとつです。
最後に故人と直接触れ合える機会であるこの儀式が重要視されるのも、お別れのときに大切にしたいものが、よりパーソナルになっていることの現われでしょう。
花祭壇に使われる花の種類は、旧来の慣習にとらわれません。
この影響を受けて、白木祭壇に飾られる花も、より自由に選ばれるようになって来ました。
祭壇わきにスロープを設け、そこに故人のイメージを生かしたお花でオリジナリティーを加えるデザインは、従来の方式を守りつつ新しさを求める方にとってはいい選択です。
葬儀につかわれる葬具は、かつては宗教的な意味合いが強く、それが尊重されてきました。
現代では、故人の最後の自己表現の場であり、残される方のいたむ気持ちを表し、ささげる場としての意味合いが強くなりました。
葬儀の流行のスタイルの変遷は、ただの流行と言うわけではなく、「死生観の変化」そのものといえましょう。
「家族葬」でのこだわりはそれぞれ
では「自分らしい葬儀」とはなんでしょうか。
この点について、新しい方式がすぐれていて、伝統の方式が古いやりかただとは一概に言えません。
「個人」を大切にした葬儀と、「伝統」や「宗教」を大切にした葬儀には優劣はありません。
伝統的な方法にのっとって十分な手を尽くしたいとお思いでしたら、それがもっともいい方法になります。
家族での見送りがもっともそのご家族らしかったら、それがいい方法です。
多くの会葬者に送られてのお別れも同様です。
後で、故人の生前の思い出とともに思い返して、いいお別れだったと思える葬儀にしたい、と言うのはだれもがそう思われるでしょう。
どの方式の葬儀も、ご遺族や残されたゆかりの方々が、これからの日々を過ごしてゆくためには大切な時間です。
ご遺族がもっとも心が安らぐと感じられる方法がいいのです。
「家族葬」を選ばれるご家族は、「故人らしい葬儀を」と望まれる方が多いでしょう。
そうしたくても、葬儀に慣れている方は普通はいらっしゃいませんから、葬儀社に要望をどう伝えていいかは悩まれるでしょう。
そういう場合には、故人がどんな方だったかを、まとまった要望になっていなくてもかまいませんから、担当者に伝えてアドバイスを求めてはいかがでしょうか。
「お話好きな方だった」ですとか、そういうことでもいいでしょう。
どんな方だったかを一番ご存じなのは、ご家族の方々です。
葬儀社で持っているノウハウのなかから、それに適したものを提案されるでしょうから、取捨選択をすればいいのです。
それと同時に「なぜ家族葬なのか」を、一度はご家族で考え、相談されることをおすすめします。
「大切にされるもの」によっては、家族葬に限らず他のプランが最適な場合もあります。
「家族葬」のプランを用意しているところでも、どこまで対応できるかは葬儀社によってさまざまです。
具体的なプランがある場合は、はじめから「こういうことはできますか」とたずねるのが早いでしょう。
昨今の葬儀で、故人らしさを演出できるものとして、遺影写真にこだわる方が多くなりました。
かっちりしたものよりは、家でくつろいでいるものや、趣味を楽しまれているところを遺影に選ばれることも多いです。
遺影の飾り方に関しても、「家族葬」など、お身内の葬儀でしたら自由度が高いです。
メインの写真の他にも、ご家族やご友人との写真も飾られ、人となりを偲ばせるものが増えました。
生前予約の葬儀までとはゆかなくても、お元気なうちに、写真を検討されるのは、自分らしい葬儀の準備としておすすめできます。
死んだときの話は縁起の悪いことと考えるよりは、人生のしめくくりをより「自分らしく」するものとして、事前の会話は一助になります。
公的お別れ、一般葬と宗教葬の役割と価値
「家族葬」や、身内だけの葬儀が注目されている一方で、「一般葬」の持つ、公的なお別れの役割と価値は、見落とされることも多いです。
また「宗教的なもの」の持つ役割と価値も見逃されることが多いです。
それらを知った上で「家族葬」を選べば、よりよい選択になることは、想像に難くありません。
宗教的には、葬儀は、なくなった故人が死者の世界へ旅立つための通過儀礼としての意味合いがあります。
仏教での「引導を渡す」などの言葉を思い浮かべていただくと想像しやすいかと思います。
どの宗教であるかに関わらず、宗教を軸とした葬儀手順は、なくなった方が生者から死者へと移行し、新しい世界へ旅立つ決別のときを形にしたものです。
同時に、残されるゆかりの人々が、段階を踏んで、大切な方がなくなられたことを体験を通じて理解できるプロセスでもありました。
また、宗教と共同体の絆のなかで、悲しみを分け合って耐えやすくすると言う役割と価値もあったのです。
現代でも、この役割は失われたわけではなく、宗教の説く、あの世に大切な人がいる、と言う思想は残された方の気持ちのよりどころになっています。
どんな理屈をつくしても、大切な人をなくした悲しみは、すぐには癒えることはありません。
もう関われない方への心残りや思いを、宗教儀式では形にしてしめし、故人ゆかりの方と共有できます。
現代の「一般葬」の「告別式」や「通夜」では、通過儀礼の部分以外の役割が大きいです。
(「通夜」はかつては近親者のために行われ「告別式」が公的なものでした。近年では「告別式」より「通夜」が参加しやすく、立場が逆転しています)
「家族葬」の家族だけでお見送りする葬儀もよいものです。
ですが、あえて申しますと、「家庭以外の場所」で活躍していた故人の人となりを知る機会を、失ってしまうと考えることもできます。
家族であっても、趣味の場や、職場での活躍をしていたその人のつながりについては、わからないものではないでしょうか。
「一般葬」では、故人が外で関わっていた方が訪れます。
最後の機会ではありますが、故人の活躍、ご趣味、業績などを知る方とともに、故人をしのぶ貴重な機会でもあるのです。
「大切な方」の知らなかった側面や人となりに、ご遺族がはげまされることもあるでしょう。
故人を大切に思い、思い出を持った人が家族の他にもいらっしゃることを目の当たりにすることが、今後の力になることもあるでしょう。
葬儀のときは、さける時間も資金も限られていて、しかも一度だけですので、迷われることもあると思います。
それぞれの方法の長所と短所を把握して、「家族葬」を検討すると、後悔が少ない選択になるでしょう。
この記事を書いた人
木南 健(きなみ たけし)
後悔を残さない最期を
数年前に父が急死した際、今の仕事に就いていればどれだけ母や兄妹の支えになれたのだろうと考えることがあります。
過去は変えることはできません。
あの日、抱いた悲しみや不安の根底にあったものは父をしっかり送ってあげたいという想いです。
同じように、大切な人との別れによる「悲しみ」「不安」を抱く方々の支えとなり、その根底にある「大切な想い」を形にするお手伝いができればと思っています。
心に残ったこと
まだ駆け出しの新人だったころ、お葬式が終わった後、喪主様に笑顔で力強く握手をされたことです。
期待にお応えできたんだと言葉以上に感じることができ、とても嬉しかったです。
出身:岡山県岡山市
趣味:弓道、読書
好きな映画:「サトラレ」
好きな音楽:BEGIN